あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 搭乗口を過ぎると、もう一度小林さんの方を向いて、手を振ってから飛行機の中に乗り込んだ。席は真ん中よりも少し後ろの窓際。ずっと遠くの視線の先には空港の見送りの展望台が見える。たまたまこの飛行機で、この場所。視線の先には展望台が微かに見えて、そこには小林さんらしき人も見えた。勿論、顔はわからない。でも、あの服は今日小林さんが着ていたものだった。


「行ってきます」


 私を乗せた飛行機は静かにその機体を震わせながら大空に離陸の準備に入る。飛行機の響きが大きくなり、次第に滑走路の方へと動きだす。そして、私の視界から遥か向こうの展望台の姿が消えた。徐々にスピードを増し、フッと身体が浮いたような気がした瞬間、飛行機は上空に向かって高度を上げていく。小さくなっていく空港が見えて、真っ青な海と空の境目のグラデーションを見ながら飛行機は上空で旋回した。


 後は真っ直ぐフランスに向かって飛ぶ。


「蒼空さん」


 そっと呟くとさっき流した涙は乾いてなかったのか、その道筋を辿るように涙がにじむのがわかった。私は窓の方を向いて、誰にも見られないように目を閉じ、機内を回ってきたキャビンアシスタントからブラケットを貰うと静かに身体に掛け、ゆっくりと目を閉じた。


 目蓋の裏には小林さんの微笑みが焼き付いていた。


 そして、その微笑みに包まれるように私はゆっくりと眠りの中に落ちて行った。

< 257 / 498 >

この作品をシェア

pagetop