あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「じゃあ、またね」


 そう、キャルさんは言うとあっさりと目の前のドアは閉じられたのだった。そして、折戸さんが私の顔を覗き込むとクスクス笑っている。


「キャルの様子に吃驚したの?」

「え?」

「仕事をする時のキャルはあんな感じだよ。どうせ、今から徹夜コースだから」

「徹夜ですか?」

「そう。今から徹夜。キャルは研究所一番の研究員で、今回の研究プロジェクトの責任者。研究結果を元に今から論文に入るのだと思う。キャルの性格からして、論文を書く気になるのに時間が掛かるんだ。大体、飲んでしっかりと睡眠を取ってからでないと書けない」


 今から徹夜で、アルコールを思いっきり飲んででも、睡眠をしっかりとって…。それがキャルさんのスタイルなのかもしれないけど、かなり変わっていると思った。研究員が論文を書くときは研究室で必死に何日も書くのだと思っていたけど、キャルさんは違うみたい。


 飲んで寝て、起きたら書く?


「昨日までは美羽ちゃんの観光と買い物を本気で付き合うつもりだったらしいけど、昨日飲みながら、その気になってしまったらしいんだ。美羽ちゃんと話したのがいい刺激になったんじゃない?」


「そうでしょうか?」

「研究者って自分のペースがあるからね。キャルも、そして、美羽ちゃんも。で、俺から言ったんだ。『美羽ちゃんは俺に任せて、キャルは論文に備えたら』って」


 折戸さんはやっぱり折戸さんだった。
 包みこむような優しさは変わらない。日本にいた時以上に優しさが増している。
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