あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
『こんばんわ。私は今、やっと研究所から帰ってくることが出来ました。研究の成果は順調です。思ったよりも時間は掛かってますが、その分、確実に成果が残っていっているので本当に嬉しいです。でも、纏まった休みは取れそうもないです。

 本社営業一課に出張されるのですね。高見主任の仕事ぶりはフランス支社の方に流れてきているらしく、折戸さんから、高見主任の件は聞いてました。その補佐に蒼空さんも行くなら、高見主任も嬉しいでしょうね。

 それでは…』


『会えるのを楽しみにしています』と書いたのを消して私は送信した。会えないのに、会えるのを楽しみと書くのは自分の中で苦しかったからだった。こんな少しワインに酔った夜は小林さんに会いたくなる。声が聞きたくなる。小林さんに会いたいと思う気持ちはあるけど、研究を投げ出すことは出来ない私がいる。不器用だと思うけど、この要領の悪さが私なのかもしれない。


「美羽。お客様よ。」


 研究の合間に窓辺で佇む私を呼びに来たのはキャルだった。白衣の裾を翻して、急ぎ足で来るキャルはいつもとは違う。今のキャルの状況からしてパソコンの前から離れられるわけがない。そんなキャルが急ぎ足でやってくるからに大変なお客であるのは間違いない。

 
クライアントの方との打ち合わせは終わっているし、その件で所長にも話をしている。キャルがこんなに急ぐほどの人が誰なのか分からなかった。


 
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