あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「そうだといいのですが。でも、まだ手探りな状態が続いている感じです。高見主任がフランスに来たのは何かの仕事の関係ですか?」


「フランスに来たのは完全なプライベートな旅行だよ」


「誰かとご一緒ですか?」


「いや。一人。色々行きたいところもあるし」


 プライベートの旅行とはいうけど、そんな雰囲気は微塵も感じない。それどころか仕事で出張に来たという方がしっくりとする。ロンドンで仕事をしてきたのだから、そうなのかもしれないけど、フランスに来てまでも支社と研究所に寄るのは仕事なのでないのかと思う。


「そうなんですね」


「実は坂上さんに大事な話があるんだ。」


『大事な話』


 そんな言葉にドキッとしてしまう私がいる。高見主任は小さな子供に話しかけるような優しい口調に胸の奥で何かが音を立てる。小さなドキドキが徐々に大きくなっていく。高見主任の今から話すことは私にとっては好ましくないことだと感じた。その薄く綺麗な唇から紡がれる『大事な話』を、息を呑みながら待つ私がいた。唇を噛み締めてないと、唇の隙間から私の鼓動が聞こえてしまうのではないかと思うくらいに大きな音が身体中に響いていた。


「坂上さんに話とは折戸の件なんだ。実はアイツは頑固なところがあるので困っている」

「え?」」


「折戸にはフランスの支社から本社に転勤命令が出ている。本社営業一課に戻ってもらうつもりだ。そして、本社営業課を背負っていって貰いたい」
< 336 / 498 >

この作品をシェア

pagetop