あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 キャルはそういうと笑いながら研究所を出て行ってしまった。一人残された私は…折戸さんにメールを送ってからフッと息を吐いた。本当ならショックを受けてはいけないし、こういうことさえ思うことも許されないと思う。でも、この一年という時間が無事に過ごせたのは折戸さんの存在が大きい。そして、近いうちに私は寂しい思いをすることになるだろう。

『今、終わりました。研究所を出たらどこに行ったらいいですか?』


 そんなメールを送ると『研究所の近くのカフェにいる』とすぐに折戸さんからの返信があったのだった。携帯を見て、フッと息が漏れてしまった。

 
 研究所を出ると、そこにはメールの返事の通りに折戸さんの姿があった。研究所の前にあるオープンカフェでコーヒーを飲んでいる。そして、何もない空を見上げていた。


 パリの夕暮れは淡いオレンジ色から終焉の光りに導く群青色に飲まれていく。折戸さんは切り取られたような風景に染まるようにコーヒーを口に運んでいる。折戸さんは物憂げな表情を浮かべ、小さな溜め息を零しているように見えた。


 フランスに来て一年と少しの時間が過ぎたけど、こんなに何かを深く考えている折戸さんを見たことがなかった。あの物憂げな表情は私にどう伝えるのかを考えているのだろうか?私に気付いた折戸さんは私に綺麗な微笑みを投げ掛けた。


 場所だけ教えてくれれば一人で行けるのに折戸さんは迎えに来てくれる。


 優しい人だと改めて思う。
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