あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 振り向くと、自分が思っていたよりも近い距離に会社帰りと思われる男の人が立っていて、折戸さんが手で止めてくれなかったら、私は確実に後ろの人に迷惑を掛けていただろう。


「ありがとうございます。ぼーっとしてました」


「うん。気を付けて、この時間はまだ人が多いし」


 そういうと、折戸さんは私の方を見つめ、ニッコリと笑う。そして、夜の地下鉄の中で柔らかな声を響かせた。


「美羽ちゃん。蒼空のこと。まだ好き?」


「好きですけど」


 遠く距離は離れているけど、私の心の横には今も小林さんが寄り添っている。毎日とは言えないけど、時間を見つけてはメールをしている。距離は離れても…気持ちは変わらない。会いたいと思う気持ちは増すけど、この与えられた有意義な時間を私は大事にしたいとも思っている。小林さんのくれた二年という年月で私は研究員として一段階段を上がることが出来るだろう。上がらないといけない。


「やっぱり美羽ちゃんはいい子だ。本当に…」


 その後は駅に着くまで折戸さんは何も話さずに外の景色を見つめていた。その横顔が綺麗過ぎると思ってしまう。フランスに来て一段と洗練され、優雅に振る舞う折戸さんは日本にいた時よりも数段素敵になっていた。魅力溢れる様は…素敵としか言いようがない。


「一年か。」


 駅の改札を降りて、ゆっくりとアパルトマンまでの道を歩きながら、そっと口にした折戸さんの言葉に重みを感じてしまう。一年という年月は短くはない。それにこれからは折戸さんが帰国する。私は目に見えないところでたくさん折戸さんに守られている。
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