あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「もうこんな時間?」


 小林さんは自分の腕の時計を見て、不満げな声を出した。私のも見せてくれたその時計の時間には驚くしかなかった。店に入って食事をしただけなのに時間は思ったよりも過ぎている。もう出歩くには遅い時間になっていた。



「美羽ちゃんは大丈夫?眠くない?」


「大丈夫です」


「ちょっと近くを散歩してから美羽ちゃんの部屋に戻ろう」


「エッフェル塔はいいんですか?」


「日本と違うし、治安とか考えたら明日の方がいいかも。でも、一緒に散歩しよ」

「はい」


 小林さんとの散歩はどこにいくというでもなくただアパルトマンへの帰り道を少しだけ遠回りして帰るだけだった。それでも、手を繋いでゆっくりと歩く道はとっても楽しい。こんな風に手を繋いで歩いていけたらと思ってしまう。手に感じる優しい温もりに、見上げると注がれる綺麗な微笑みが幸せを運んでくる。小林さんの魅力を感じながら歩く道は一歩ごとに好きだという気持ちが深まっていく。


「歩くだけなのに楽しいね」


「はい」


 石畳を歩く音が重なる。ドキドキしながら歩く散歩道は普段歩き慣れた道にも関わらず、全く違う道を歩いている気がした。幸せというのはこんなに近くにあると靴音が教えてくれた。


 アパルトマンに着いたのは店を出て一時間くらい経った頃、小林さんは全く平気だったけど、研究所から殆ど出ない私は運動不足を痛感していた。

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