あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 店を出たのは三本目のワインが空になってからだった。キャルの結婚式で緊張していたのと、自分の中で溜まった疲れの蓄積はワインでの酔いを加速する。それでも今日は飲みたい気分だった。明日からキャルは居ないし、今、一緒にいる折戸さんも明日には日本に帰国する。


「今日はとっても楽しかった。今度は蒼空も高見課長も一緒に日本で飲もう。きっと楽しいと思うけど、今日みたいにワイン三本くらいでの気持ちいい酔いじゃなくて、死にたくなるくらいに飲まされるんだろうね。俺も美羽ちゃんも」


「それは怖いです」


「大丈夫。美羽ちゃんが飲めない分は全部蒼空が飲むから」


 高見課長と折戸さんとの間に挟まれた小林さんはきっと笑いながら飲んでいくんだろうと思う。で、糸が切れたように寝てしまう気がする。


「先に帰ります」


「その時は責任を持って、美羽ちゃんたちのマンションまで送るから」


「え?」


「フランスから蒼空のマンションに帰るんだろ。美羽ちゃんも絶対に幸せになれるよ」


 見透かされた私の気持ちは折戸さんには分かっていたようだった。キャルの結婚式で幸せを祈りながら、私はどうなるのだろうかと思ったこと。日本に帰国したら本当に結婚するのだろうか?指輪も一緒に買ったのに、当たり前だけどまだ、全く実感がない。


「ありがとうございます」


 幸せになりたいと思った。小林さんに愛されて、折戸さんに大事にされて、今でもとっても幸せだと思う。でも、折戸さんに心配させないようにしたい。


 そして、今すぐ小林さんに会いたいと思った。
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