あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「でも、私…」


「すぐに返事は出来ないだろうから、ゆっくりと考えて欲しい。でも、私はここに残って欲しいと思っている。その気持ちは忘れないで貰いたい」


 研究所長はすぐに答えを私には求めなかった。でも、いつかは答えを出さないといけないと思う。そう思うと度自分の中の気持ちの揺れを抑えきれなかった。


 自分の研究室に戻ると、椅子に座りさっきは飲めなかったコーヒーを飲むことにした。少し落ち着いて物事を考えないといけない。椅子に座り、そのまま窓の外を見つめ、ここに来てからのことを考えていた。フランスでの研究所での仕事は魅力的なのは間違いない。今度始める研究も興味がある。キャルと私で切り開いた研究の道を自分の手で完成させたいという気持ちもある。


 それに困っていると言われると知らぬふりも出来ない。


 でも、私は小林さんの傍にいたい。一年延長?移籍?そんなことしたら小林さんとの恋は確実に終わってしまう。一緒にいたのはたった一ヶ月前なのに、結婚指輪も買ったのに、約束もしているのに…。


 私は小林さんとの約束を破らないといけないのだろうか?


 小林さんとの恋を諦めることは出来ないならば会社を辞めないといけないかもしれない。研究という仕事はそんなに簡単に仕事が見つかることはないのも分かっている。研究所ではなく大学に戻って研究するのもいいけど、それだったら静岡には帰れない。


 恋と仕事。
 私は何度もこの二つの間に揺れ動く。


 このことを小林さんに連絡しないといけないと自分でも分かっている。なのに、言えないでいるのは私が弱いから、小林さんの気持ちを聞くのが怖いからだった。

 毎日のメールにも電話にも何も言えなかった。心が決まらないから私は何も言えない。
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