あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 フランス交換留学は期間限定。でも、移籍となると日本に帰ることも出来なくなる可能性もある。フランス研究所の人員は厳しい。それは分かっている。元々少ない人員でやっていたのに、主任研究員のキャルが退職してしまったので人員不足は深刻だった。日本に行っている私の代わりの研究員が戻ってきたとしても人員的にはギリギリだろうから、所長は私に声を掛けたのだと思う。


 所長の気持ちもわかる。


 でも、移籍は絶対に考えられない。今のままの状況から行くと、どう見積もってもこの研究が中途な状況で日本に帰国しないといけなことになるのは気になってはいる。一生懸命研究をしてきたから、出来れば自分の手で成果を上げたいと思う。これは研究員としての我が儘だと分かっていた。


 これ以上、小林さんと離れているのが無理という私もいる。この一年の間、自分で選んだことだからと言い聞かせていたけどそれももう難しい。自分を誤魔化すのは辛い。


 それはある日のこと。研究所から帰ってきて、いつもの時間にいつものように電話が鳴った。それは小林さんからだった。いつもは優しい小林さんの声がいつに無く低く感じた。


『美羽ちゃん。フランス研究所の交換留学が一年延長の話が出ているって本当?それにフランスに完全移籍の話もあるって本当?もし本当なら何で俺に言わないの?』


 いつもの近況報告の電話と思っていたのに、いきなりの小林さんの言葉に驚いた。
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