あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 私は自分に自信がなかった。研究ばかりをしてきた私は恋愛というか、人との関わりの中で一番遠い場所にいたのだと自分でも思っていた。そんな私がたくさんの人の優しさに触れ、今から一番大好きな人の元に行こうとしている。


 恋とか愛とか知らなかった。
 こんなにも心の奥底から人の幸せを願うことを知らなかった。


 でも、私は今、恋も愛も知っている。


 教会の中から静かにパイプオルガンの音が聞こえてくる。厳かなその音に合わせて、両開きの木製のドアが開かれた。祭壇へ続く花がたくさん飾られたヴァージンロードの横にはたくさんの優しい表情が溢れている。


「美羽。行くよ」


「はい」



 お父さんはそう言うと私の歩調に合わせてゆっくりと歩き出した。ゆっくりと前を見ると、真っ白なタキシードに身を包んだ小林さんの姿が見える。真っ直ぐに私だけを見つめてくれている小林さんはいつもよりも優しい微笑みを浮かべ、私が歩いて来るのを見ている。一歩歩く毎にドキドキが止まらなくなる。心が引き寄せられる気がした。


『おめでとう』


 ヴァージンロードを歩く私にたくさんのお祝いの言葉が降り注ぐ。そんな言葉に感謝の気持ちで包まれると胸の奥がツンとなって、涙が零れそうになる。何回ありがとうと言っても足りないくらいの思いが私の中にある。


 教会の中にはたくさんの人が溢れていた。今までお世話になった研究所の人、支社の人…。高見課長、折戸さん…そして、その横にはキャルもいた。一応、来て欲しいと思って招待状は送ったけど、フランスから来るのは大変だったろう。そして、キャルの横には中垣先輩の姿もある。


『ありがとうございます』


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