あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「あの。私がフランスに行くの決まっていたのに、成果を上げるということで代わってくれたと聞きました」


 こんなに早く帰る理由を聞けずにいた私が口に出来たのは今日の昼に聞いたことだった。昼休みに研究室に戻った時は中垣先輩は神経を集中して没頭していたのを感じたから何も言えなかったけど、これはどうしても聞いておきたいことだった。私の言葉に視線を移すと、中垣先輩は訝しげな表情を私に見せる。あんまり表情に感情を表さない中垣先輩に珍しいことだった。


「誰に聞いた?」


「第五研究室の子にです」


「半分当たっていて、半分は違う。坂上がフランスに行くのが決まっていたのは本当。でも、フランスに行くまでに成果を上げるのは坂上と代わる条件ではなくて俺が中途半端に研究を残していきたくないだけだ。俺の性格は坂上が一番よく知っているだろ」


 そう言われるとそうかもしれないけど、そうでない気もする。人から誤解されることが多い中垣先輩だけど、一緒に仕事をしてきたからこそ分かる。中垣先輩はとっても優しい人だ。私が今、静岡研究所を離れたくない理由も分かっている。だからこその行動にしか思えない。


「そうですか。…でも…」


「フランスのパリ研究所はヨーロッパの中でも抜きん出て盛んに研究が行われている。そんなフランスの交換留学となると誰もが行きたがると思わないか?俺は日本だけでなく色々な場所で研究に携わりたい。今回は坂上に来た話だったけど、坂上が断るなら俺が行くだけのことだ」
< 64 / 498 >

この作品をシェア

pagetop