あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 駅からマンションまでは少しの距離で歩き慣れた道だった。そんな道を小林さんは私の手を握ってゆっくりと歩く。気恥ずかしさに繋がれた手を見ると、私の頭の上でフッと息が漏れる音がした。そして、甘い言葉がゆっくりと降り注いだのだった。


「迷子になったら困るから手は放さないよ」


 こんなに人が少ない場所で迷子になんかならないと思うけど、手を振り解くつもりはない。付き合っているのだから、手を繋いで歩くことに理由は必要ないけど、少しの理由が嬉しかったりする。


「これで迷子にならないですね」


「もちろん。で、研究所の方はどう?」


「大変ですね。でも、頑張ってます」


 前と違うのは私のことをもっと知ってほしいと思う気持ちがあるからだと思う。この頃は前よりも仕事のことを小林さんと話すことが増えた。私の中の気持ちを少しずつ言葉にするとそれを小林さんは優しく受け止め、そして、流れを作ってくれていく。そんな中で私は自分らしくいることが出来る。


「美羽ちゃんは頑張っているよね。俺も頑張らないと」


 小林さんは支社と研究所ということで違う場所で仕事をしているけど、研究所にも小林さんのことは流れてきている。真摯な態度で仕事の臨むのからか、上司からの評判もよく、成績もかなりいいらしい。



「明日の仕事は忙しいですか?」


「ああ。残念なことに残業が決まっている。今日は会議が明日に流れたから思ったよりも早く帰れたけど明日はこうはいかない。でも、美羽ちゃんに会えたんだから俺って運がいい」
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