俺様御曹司と蜜恋契約
するとマミさんが私を指差す。

「ねぇその子だれぇ?」

失礼なその態度に少しだけムッとした。しかし次の瞬間。私をさらにムッとさせるような発言が葉山社長の口から飛び出る。

「ああそいつ?そいつは田舎から出てきた俺の親戚」

「へぇ~」

マミさんが私へ近付くとまじまじと顔を見てくる。

「うーん。似てないけど、でもさすが光臣の親戚。可愛いじゃん」

でも私の方が可愛いけどね、とちゃっかりと付け加える。

「……」

いろいろ言い返したいことはあるけど私はグッと言葉をこらえた。すると葉山社長が再び口を開く。

「そいつ今こっちの家に遊びに来てんだけどさっきまで俺が都会を案内してあげてたんだよ。でももういいよな?」

財布からお金を取り出すとそれを私に手渡す。

「ほら。これでタクシー拾ってうちに帰りな」

「………」

いったいここから家まで何往復すればいいんだろう。葉山社長に渡されたお金は諭吉さんが5枚。ここから家まではそんなに必要ない。受け取れないと思って返そうとしたのだけれど、

「気を付けて帰れよ、花」

葉山社長の唇が私の頬に触れるだけのキスをした。その突然の行動にぎょっとして慌てて両手で頬を押さえる。そんな私の仕草にマミさんがケラケラと声を出して笑い出した。

「だめだよぉ光臣。キスしていい相手としちゃいけない相手がいるんだよぉ。親戚ちゃんは純粋そうだし、そういう子に簡単にキスしたら軽い男だと思われて信用されなくなっちゃうよぉ?あっ、光臣はもともと軽い男だから関係ないかぁ~。あはは」

「……」

勝手にこんなところにまで連れてこられたり。親戚と言われたり。お金を渡されてあとはタクシーで帰ろと言われたり。

葉山社長がこのあとマミさんとどんなふうに過ごすのかは知らないし知りたくもないけど、私はもうこれ以上ここにはいたくない。

『田舎者の親戚』は早く退散します。

「都会を案内してくれてありがとうございました光臣さんっ」

嫌味たっぷりな口調でそう告げると背中を向けて歩き出す。

「待てよ、花」

葉山社長に声を掛けられるけれど無視して歩いた。

葉山社長から貰った諭吉さん5枚を手で握りしめる。こんなお金使わない。タクシーでなんて帰らない。

もうすぐそこに駅がある。そこから自分のお金で電車に乗って家まで帰れる。

葉山社長はやっぱり最低な人だ。

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