専務と心中!
今のって、何?
嫌味?愚痴?文句?
それとも、諦め?言い訳?

……何となく……ふられる布石?……考え過ぎかな?

無言でうつむいた私の肩を、椎木尾さんがふわりと抱き寄せた。

ドキッとした。

「ごめん。嫌なこと言った。……今夜、埋め合わせ、させて。」

……なんか、ずるい。
そんな傷ついたような表情で、そんな風に誘われたら……拒めるわけない。

黙ってうなずいた私の頬に、椎木尾さんは軽くキスした。

……び、びっくりした。
こんな……普通に周囲が社員いっぱいなところで……何、するかな?このヒト。

ドキドキして見上げると、椎木尾さんは苦笑して、そっと私を手放した。
「じゃあ、昼休みに。」
椎木尾さんはそう言い置いて、足早に行ってしまった。

……翻弄されてるなあ……私。


その日、椎木尾さんは優しかった。
ランチもディナーも、Hも…一緒に楽しんだ。
食欲も性欲も満たされて、お互いに抱いたモヤモヤからは敢えて目を背けたのかもしれない。

何も、波風を立てる必要はない。
私たちは、充分うまくいってる。
幸せな恋人同士だ。

……なのに、どうして椎木尾さんの心が見えないんだろう。
いつもいつも、遠い……。



「相性が悪いんかもな。」
その夜は、一旦帰宅してから、薫の部屋へ行った。

明日から薫は競輪場の宿舎に缶詰めになる。
前検日と呼ばれる競走前日の集合日の前夜と、缶詰めから解放される競走最終日の夜、薫の性欲は普段と比較にならないぐらい増幅する。
解消対象は、その時つきあってる彼女、私、セフレ、風俗……ということらしい。

「相性、ねえ。……まあ、確かに、趣味とか嗜好はホント合ってへんわ。でもさ、薫と私かて、別に趣味とか合ってるわけちゃうやん?……でも、こんなに楽ちんで、こんなに気持ちいいよ?」

薫のすべすべの大胸筋を撫でながらそう言った。
ほんと、柔らかいイイ筋肉だわー。

「そりゃ、積み重ねた年月が違うから。……俺ら、もう、喧嘩もないし。」
薫はそう言いながら、お返しとばかりに私の乳房を弄ぶ。

「家族みたいなもんやもんね。」
そう言って、ちょっと笑った。
「まあ、家族とこんなことしちゃうの、まずいやろけど。」

ほんと、やらしいことしてるのに全然淫靡じゃなくて、一緒にスポーツするみたいに、コミュニケーションを楽しんでるのかも。

……ほんの数時間前、私は椎木尾さんと、薫は今の彼女とヤッてきたにも関わらず……。

背徳感は情事のスパイスでしかないようだ。


薫はしばし黙ってたけど、ボソッと言った。

「におと結婚したら楽なんやけどな。……あかんよなぁ?」
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