専務と心中!
「いや、別に趣味が違う恋人や夫婦なんかいくらでもいると思うけど……。まあ、におの今の彼氏は、におとの時間よりも趣味を優先してるんよなぁ。でもにおのほうも、そんな彼氏との時間の共有と関係の構築を諦めて、俺とこうしてるし。お互い様やろ。」

いつもの薫と違う声に、ぴんときた。

「……もしかして、薫、何かあった?今の彼女と喧嘩した?」
そう聞くと、薫は苦笑した。

「……まぁな。いろいろバレて、冷戦中。」
「あ~~~~。」

何となく、それ以上は聞くのを憚られた。
その「いろいろ」に私との関係も入ってるのかもしれない。

「精算する?お互い。……つきあう?」
わざと曖昧にそう聞いた。

薫は、私の頭をなでた。
「それもいいなぁ。でも、俺、彼女に指摘されたんやけど……におは俺のこと独占したいと思わへんやろ?俺も、におを俺だけのモノにするのはとっくに諦めてるみたいやわ。……逆の視点で考えてみぃ。におは誰かに独占されたくないか?そいつに義理立てして、もう、俺に抱かれたくないって思えるぐらい、一途に好きになれる男、欲しくない?」

薫は、けっこうマジな顔をしていた。
返答に困っていると、薫はため息をついた。

「俺、ずっと探してる気がするねん。におより大事って想える女。……そやないと、結婚する意味ないだろ?」
「それ、今の彼女じゃないんだ……」

私がそう確認すると、薫は残念そうにうなずいた。
「うん。彼女を騙すのも、自分を騙すのも、もう限界。……におも、そうやろ?今の彼氏のために、俺を切ることはないやろ?」

……くやしいけど、私は渋々うなずいた。

でも、慌てて反論した。
「てか!薫は幼なじみだから、どんなヒトと付き合っても、結婚しても、縁を切るとかないから。」

薫の顔がちょっと泣きそうになった。
「……ただの幼なじみやったら問題なかってんけどな。……俺も、におも、過去の恋も、今の恋人も、この関係も踏み台にして、そろそろ本気で探さなあかんのちゃう?唯一のヒト。」

何だ、それ。
言ってる意味がよくわかんない。
わかんないけど……薫が、今の彼女と別れそうなこと、私を焦らせようとしてることはわかった。

私は、ことさらにため息をついて見せてから、起き上った。
無言で帰り支度を始めると、薫が慌てて私を背後から抱き締めた。

「ごめん。怒った?……におを追い詰めるつもりはないのに。ごめん。」

……泣きそう。
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