専務と心中!
その日は珍しく、統さんの帰宅が遅かった。

早く妊娠したこと伝えたいのに。

仕方なく先に、お花さんや、社長、それから実家の両親と薫に伝えた。
祝福がうれしくて涙ぐむたびに、聡くんが察して、ティッシュペーパーを差し出してくれた。

「聡くんの彼女になるヒトは、幸せねえ。」
しみじみそう言っては、聡くんを困らせた。


ようやく統さんが帰宅した……見覚えのある老紳士を伴って。
ホームレスのおじさんだ!

「わ!おひさしぶりです。お元気でしたか?」

よくわからないけれど、統さんが師と仰ぐヒトなので、私も丁重に接した。
おじさんは気恥ずかしそうにうなずいた。

「今日は、いいニュースがあるぞ。稲毛さんのおかげだ。」
統さんはニコニコとそう言った。

いなけ?
誰?

キョトンとしてると、ホームレスのおじさんが統さんをつついた。

「こら。名前は出すなと言っただろう。馬鹿者。」

え?
おじさん、稲毛さんって言うんだ……。

でも、何で、内緒なんだろう。

「いいニュースってなに?……私も、伝えたいことあって、待ってたんよ。」

とりあえず、気を取り直してそう尋ねた。

統さんは、首を傾げた。
「ん?何だ?」

「妊娠してるみたい。」

そう言ったら、統さんは一瞬固まって、それから、見る見るうちに、デレデレになった。

「そうか。そうかそうかそうか。よかった!いや、本当によかった!ありがとう、にほちゃん。うれしいよ。やばい。超うれしいよ。」

そうして私を抱きしめて、ぐるぐると回った。

「ちょっ!統さん!恥ずかしい!おじさん、呆れてはるわ!」
「……いや。今さらだろ。かまわん。めでたいことだ。……おめでとう。」

おじさんは神妙に祝福してくれた。

「ありがとう!も。全部おじさんのおかげだよっ!」

統さんはそう言って、おじさんにも手を伸ばして抱きついた。

「わっ!よせっ!」
「ちょっ!?」

おじさんと私の戸惑いをものともせず、統さんはぎゅーっと力を入れて私達にしがみついた。
……統さん、泣いてる?


しばらくして、統さんはようやく私たちを解放してくれた。
そして、社長も呼んでから改めてホームレスのおじさんを紹介してくれた。

「もう何年も前から、市場に出てる我が社の株を買い集めてたんだけど、とりあえず、今、買える株は全部抑えました。資金調達も、投機も、すべて、稲毛さんのアドバイスに従いました。これから資産管理会社を立ち上げるにあたり、この稲毛さんに代表をお願いしました。」
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