専務と心中!
は?

何言ってるの?

ぽかーんとして、統さんを見た。

統さんは苦笑した。

「そんな顔するなよ。夢だってわかってるんだから。でも、俺、にほちゃんに惹かれてから、琵琶湖についても勉強したし、竹生島や藤ヶ崎龍神にも行ったけど、気配を感じなかったから……もう、琵琶湖には龍神はいないって思ってたんだ。でも、あの夜、わざわざ龍神さまのほうから来てくれた。」

統さんの顔から笑みが消えた。

「……翌日、椎木尾くんが琵琶湖に身を投げたと聞いて……あれは龍神に化身した椎木尾くんだったのか、それとも、椎木尾くんの死に対して、龍神が俺達の責任を問いたいのか……ずっと、考えてた。」

驚いて、統さんを見つめた。

統さんは、私を見てほほえんだ。

「でも、やっと今日確信した。龍神さまは、にほちゃんのお腹に宿りに来たんだ。……椎木尾くんも、死んでない。どこかで生きてる。」

涙が、こぼれた。

わけがわからない。
統さんの言葉の意味も、私が泣く意味も、理解できない。

なのに、私はボロボロと盛大に涙をこぼして泣いていた。

同時に、心の中が妙に温かいような気がした。


とりあえず、椎木尾さんは、どこかで生きてるって、私も信じたい。

……ん?

「ねえ?椎木尾さん、琵琶湖で本当に死んじゃって、龍神になって、お腹の子として転生してくる可能性もあるんじゃない?」

もちろん私は、龍神も転生も信じてないんだけど、何となく統さんの話から類推できる一つの可能性を挙げてみた。

すると、統さんはハッとしたらしい。
「そうか!その可能性もあるな。……よし。じゃあ、子供が生まれたら聞いてみよう。前世は、龍神か、椎木尾くんか。」

……答えが得られるとは思えないんだけど……それ。

ま、いっか。

前世とか関係なく、統さんと私の愛しい我が子。
無事に生まれてきてくれたら、それでいい。

「名前は、龍吾(りゅうご)がいいかな?いや、逆に吾龍(がりゅう)とかがりょうでもいいな。りゅうの字は、画数の少ない竜のほうがいいかな?」

いつまでも専務は、ぶつぶつと子供の名前を考えていた。
……それはそれで、幸せな夜……かな。






幸せな月日は、あっという間に流れた。
社史編纂の仕事も、お腹の赤ちゃんの成長も順調だし、世間の噂もほとんど消えた。

お腹が目立つ前にと、5月半ばに神社で挙式して、披露宴もした。
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