専務と心中!
「お姉さんは穴党なんでしょ。……でも、水島くんまだまだ強くなるから……本命で儲けるように買い方を変えたほうがいいよ?」
中沢さんはそう言って、ニマニマと笑った。

「……お姉さんはよしてください。布居です。」
何となく、専務と同い年のおじさんに「お姉さん」と呼ばれることに違和感を覚えて、そうお願いした。

「布居さん、ね。ぐっちー、ちゃんと仕事してる?学術的には超優秀な男だけど、商売となると昼行灯(ひるあんどん)じゃない?」

中沢さんにそんな風に言われても、専務はニコニコしていた。
会社で役に立たないと言われてるのに、むしろ学術的優秀と誉められたことがうれしいのだろうか。

何だか、わけがわからない。
このヒトたち、2人とも、浮き世離れしてるわ。

「雲の上のかたですから。こうしてお話しするのもはじめてです。」
控えめにそう言ったら、専務は意外なことを言った。
「いや。2度目だよ。面接の時に話しただろう?」

……面接?
入社試験の役員面接?
そんなの、覚えてないってば。

「専務もいらしたんですか。」
そう聞いたら、専務はあからさまにしょんぼりした。

……ニコニコ顔からの落差があまりにも激しくて……まるで子供みたい。

やばい。
かわいい。
おっさんやのに、かわいいよ、専務。

「ほら、ぐっちー。選手入場。応援応援!」
中沢さんに背中を叩かれて、専務は困った顔で専門予想紙を開いた。

「買ってらっしゃるんですか?」
「うん。6レースから最終まで、全レース。」
「誕生日車券だよね。ぐっちーと、愛息子の。」

中沢さんにそう言われて、専務はほんのりと頬をそめた。
……乙女みたい。

「微笑ましいですね。……愛妻の奥さまのお誕生日は、隠し車券ですか?」

そう尋ねると、専務の頬から色と表情が消えた。
くいだおれ人形みたいな笑顔が能面に変わっちゃった。

……うまくいってないのか。

どう取りなそうか困ってると、中沢さんがひゃらひゃらと笑った。
「布居さん、それ、禁句!ダメだよ~。ぐっちーと奥さん、離婚寸前。ほとんど日本にいないんだから。ねえ?はい、スタートしたよ。」

え!?

聞いてはいけないことを聞いてしまってる気がする……。
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