専務と心中！

既にレースを食い入るように観ている中沢さんを横目に、小声で専務に耳打ちした。

「あの。専務。すみません。……誰にも言いませんから。」

てか、社長、言ってなかったっけ？
椎木尾(しぎお)さんと私の仲人は専務にやらせる、って。
それじゃ、できひんやん。

専務は苦笑した。
「いや。いいよ。気にしないで。別に隠してないから。……今は帰国してるよ。弁護士呼んで、離婚の話をしてる。財産分与の要求額が常識外れに大きくて社長とうちの弁護士が了承しなくて長引いてるけど。まあ、外泊多いから既に男がいるんだろうし。今夜も留守だろ。」

……ま、末期症状！？
うーん……そうだったんだ。

「奥さまを引き留めなくていいんですか？」

返事はなかった。

場内に、残り一周半を告げる鐘が鳴った。
「よーし。行け。」
小声で中沢さんが念じる。

先行した南関ラインを、地元近畿のおじさんを連れた中部の若手選手があっさりと飲み込む。
ゴール直前で、近畿のおじさんたちが綺麗に差してく。

直線距離の短い周長330mバンクにしては珍しく、捲りラインの二番手、三番手で決まった。
地元選手が勝ったわりには、二車単６千円越え、三連単は２万円越えの高配当だ。

「……的中した……。」
専務が呆然と言った。

「僕も。」
中沢さんは得意そうにそう言った。

「え！２人とも！？すごい！おめでとうございます。二車単？三連単？いくら買うてはったんですか？」

私は百円、うーんとがんばっても一点五百円も買わない。
専務は素人だから百円？
いや、中沢さんだって、これは本命車券じゃなくて、地元だから抑えてたって程度だろうし……。

中沢さんはニヤニヤ笑った。
「二車単10枚、三連単5枚。」

車券の金額を「枚」と数えるのは、昔の言い方だ。
１枚が百円だから……えーと……

合計16万円超え！？
びっくりして言葉が出ない。

でも専務は、もっとすごかった。

「三連単１万円……。聡(さとる)の誕生日車券……。」

え！
に、２百万円超えってこと！？

唖然としてる私の手を両手で包み込むように握りしめて、中沢さんがキラキラした瞳で専務に言った。
「おめでとう！僕はいいから、布居さんにお祝儀！……夕食はもちろん、ぐっちーのおごりね！」
「あ、うん。そうだな。何がいい？お肉？お寿司？」

……手……何で、中沢さんに握られてるかもよくわからないし、話の流れもよくわかんない。

「……いや……そんな……関係ないのに、そんな……」

困ってる私に、専務がにっこり微笑んだ。