専務と心中!
「こういうのは、ご縁だから。巡り合わせ?」
「そうそう。ぐっちーのビギナーズラックに居合わせたのも、いつまでも未練がましかった奥さんへの想いを諦めたこのタイミングで布居さんと仲良くなれたのも、ご縁だと思うよー?」
中沢さんは、いけしゃあしゃあとそんなことを言った。
「中沢!こら!……失礼だよ。そりゃ布居さんは前からイイ子だと想ってたけど、こんなおじさん相手にするわけないだろ。それに、布居さん、椎木尾くんと……。」
……びっくりした。
びっくりしすぎて、私はちょっとパニックしていた。
専務、どこでどう私を見知っていたのか……えらく好意的な気がする。
いや、専務が好色だとか、女子社員に手を出すとか、まじで聞いたことないし。
単に、無能で明るいマイペースな愛妻家としか認識してなかった。
このヒト、ほんとに、我が社の専務?
「ふーん?……あ。さっきゴール前に水島くんの彼女来てたよ。でも、あの子とはそろそろ終わりかなぁ。ねえ?」
中沢さんは、やっぱり薫と私の関係を知っているらしく、わざわざそんな風に私に釘を刺した……気がする。
「そうなんですか?中沢さん、何でもよくご存じですねえ。」
さらりとそう受け流す。
「うん。選手のプライベートも車券に関係するからね。まあ、布居さんが応援しに来てくれたから水島くん、今日は強いよ。もしかしたら逃げ切りまであるかもね。」
……え?
「泉さんに差されず?逃げ切れるの?」
「それぐらい強くなってるよ。ここ、330m(さんさん)バンクだし。」
「えー!それ、うれしい!」
キャッキャはしゃいでると、不思議そうに専務が聞いてきた。
「さっきからよくわからないんだけど、競輪選手は自分が勝つために走らないのか?グループに分かれてるみたいだけど、地区別対抗戦なのか?」
なるほど。
専務は競輪のいろはすら知らないで、万車券をとったのか。
中沢さんは、簡単に説明した。
「もちろん自分が勝つために走るのが本当なんだけどね、そこはほら、人間だからさ、こいつを勝たせたくない!とか、師匠や先輩にどうしても勝ってほしい!とか、いろんな思惑があるんだよ。それに独りで走ったら空気抵抗で疲れちゃうから、地区ごとや、同期なんかでラインって言うグループを組んで、助け合うんだよ。ラインの前は風を受けてすごく疲れるから、すぐ後ろにつくマーク屋が他の捲って来るラインの選手を牽制するし、三番手につく選手は、他の選手が内へ切り込んでくるのを防ぐために内側を固めるし。……で、ゴール前4コーナーは同じラインの選手に対する遠慮をかなぐり捨てて我先にゴールを目指すの。」
「そうそう。ぐっちーのビギナーズラックに居合わせたのも、いつまでも未練がましかった奥さんへの想いを諦めたこのタイミングで布居さんと仲良くなれたのも、ご縁だと思うよー?」
中沢さんは、いけしゃあしゃあとそんなことを言った。
「中沢!こら!……失礼だよ。そりゃ布居さんは前からイイ子だと想ってたけど、こんなおじさん相手にするわけないだろ。それに、布居さん、椎木尾くんと……。」
……びっくりした。
びっくりしすぎて、私はちょっとパニックしていた。
専務、どこでどう私を見知っていたのか……えらく好意的な気がする。
いや、専務が好色だとか、女子社員に手を出すとか、まじで聞いたことないし。
単に、無能で明るいマイペースな愛妻家としか認識してなかった。
このヒト、ほんとに、我が社の専務?
「ふーん?……あ。さっきゴール前に水島くんの彼女来てたよ。でも、あの子とはそろそろ終わりかなぁ。ねえ?」
中沢さんは、やっぱり薫と私の関係を知っているらしく、わざわざそんな風に私に釘を刺した……気がする。
「そうなんですか?中沢さん、何でもよくご存じですねえ。」
さらりとそう受け流す。
「うん。選手のプライベートも車券に関係するからね。まあ、布居さんが応援しに来てくれたから水島くん、今日は強いよ。もしかしたら逃げ切りまであるかもね。」
……え?
「泉さんに差されず?逃げ切れるの?」
「それぐらい強くなってるよ。ここ、330m(さんさん)バンクだし。」
「えー!それ、うれしい!」
キャッキャはしゃいでると、不思議そうに専務が聞いてきた。
「さっきからよくわからないんだけど、競輪選手は自分が勝つために走らないのか?グループに分かれてるみたいだけど、地区別対抗戦なのか?」
なるほど。
専務は競輪のいろはすら知らないで、万車券をとったのか。
中沢さんは、簡単に説明した。
「もちろん自分が勝つために走るのが本当なんだけどね、そこはほら、人間だからさ、こいつを勝たせたくない!とか、師匠や先輩にどうしても勝ってほしい!とか、いろんな思惑があるんだよ。それに独りで走ったら空気抵抗で疲れちゃうから、地区ごとや、同期なんかでラインって言うグループを組んで、助け合うんだよ。ラインの前は風を受けてすごく疲れるから、すぐ後ろにつくマーク屋が他の捲って来るラインの選手を牽制するし、三番手につく選手は、他の選手が内へ切り込んでくるのを防ぐために内側を固めるし。……で、ゴール前4コーナーは同じラインの選手に対する遠慮をかなぐり捨てて我先にゴールを目指すの。」