専務と心中!
「それこそ、ご縁じゃないですか?人生の一時期を共有するだけの。……椎木尾さんの趣味の世界には、私は入れないから……潮時なんだとは思ってるんですけどね……別れるきっかけがないというか……。」

……私、会社の専務に何言ってるんだろう。
専務は、真剣な顔で私の言葉に耳を傾けていた。

「昔は、ヒトを好きになれば、お互いに好みも趣味も歩み寄れるものだと思ってました。でも、さすがに、もうそんな夢、見られませんね。」
ため息がこぼれでた。

専務は、目を伏せてうなずいていた。
……思い当たることあるみたい。
奥さまと、相容れなかったこととか、後悔してはるのかな。

「なーに、辛気くさい話してんの。ぐっちーも、布居さんも、次に行けばいいじゃん。二段駆け。ぴょーんと。」
どこから聞いてたのか、中沢さんが帰ってきてそう言った。

「二段駆け?」
競輪用語に馴染みがない専務がそう聞き直す。

「そう、二段駆け。終わった関係にしがみついてないで、自力出して、次の恋に行きなよ。」

そう言ってから、中沢さんは私に向かって悪戯っこのように笑った。
「水島くんの彼女にも同じこと言って来ちゃった。あの子、水島くんが紳士的で優し過ぎるってものたりないんだって。しょーりを紹介してって頼まれちゃったよ。非道なぐらい強引な男がいいみたい。」

「はあっ!?なに!?それ!」
思わず憤慨した。

ものたりない?
薫が?
そんなもん、お互い様じゃないの!?

……そう思ってみたけれど……私と椎木尾さんも同じかもしれない。
実際、椎木尾さんは、自分の趣味を理解してくれる女の子が欲しそうだし。

てか!
もしかして、もう既にそういう存在がいるのかもしれない。

「まあ、しょーりは今は既婚者だけど、家庭は破綻してるしねえ……いつも。しょーりが悪いんだけど。……というわけでさ、水島くん、おっつけフリーになるよ?布居さん、ちゃんとつきあってあげたら?」
中沢さんはたたみかけるようにそう言った。

……薫とつきあう?
今さら、本当に可能なのだろうか。
薫も私も、お互いどころか、自分自身の一途も信じられない気がする。

返答に窮してると、突然、専務が素っ頓狂な声を挙げた。

「はいっ!」

いつもの専務より高いうわずった、しかも周囲に響く大きな声にびっくりした。
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