COLORS



あれは、眩むような太陽が照る、真夏。





「それ、暑くないの?」





部活を抜け出して涼んでいた私の、弓道着を見て、教師は、にこりと笑った。





「先生こそ、それ、暑くないの?」





私は、教師が着ているシャツの、手首まである袖に、問いを返した。





「うん、暑いね。でも……」



「でも?」



「長くなきゃ駄目なんだよ」





そう言って、目を伏せた教師は、水を張ったグラスのように、どこまでも透明で、





「どうして?」





瞬間、





「どうしてだろうね……」





溺れてしまったのだ。







今は、太陽は足早に去る、真冬。





礼の部屋は、今日も、黒い。





「電話、鳴ってるよ?」



「放っておいて。どうせ、この前、遊んだ奴だろ。俺はね、来るもの拒まず去るもの追わず、だから」



「相手、去ってないじゃない……」



「俺が飽きたら去るものなんだよ!! いいから放っとけよ!!」



「……わかった」



「ゆりは物分かりがいいね、そういうの、イラつくなぁ、本当、イラつくよ」



「はいはい、ゴメンナサイ」





物分かりがいいふりをしていなければ、礼は、私を、隣に置かないだろう。





「ガキが大人ぶるなよ、見苦しい」





大人ぶっていなければ、私は、礼の、隣にいられないだろう。





「……だったら、ガキらしく、キレてやれば、満足するの?」





わかっている。





溺れたのは、私だけだ。





離れられないのも、私だけだ。





私は苦しいほど満たされているのに、礼を満たす術を持たない。





どれだけ物分かりのいいふりをしても、





どれだけ大人ぶっても、





礼には、届かない。







「嘘だろ、ゆり……」







わかっている。





礼には、届かない。





きっと、届かない。







だから……







見慣れたナイフは、



弧を描きながら、



首を走っていったのだろう。







礼は、鮮やかな血を吐きながら、ずるりと崩れた。





「どうして……」





私は、いつかのように目を伏せ、動きを止めた、礼を、抱きしめていた。





後悔はなかった。





次から次へと、達成感が、あふれていた。





私の腕の中で動きを止めた礼が、私だけのものになったような気がしていた。





恐怖もなかった。





ただ、幸福だけを、感じていた。







向こうで転がるナイフは、嘆いている。







やがて、私も、同じ血を吐くだろう。





そして、私も、動きを止めるだろう。





力をなくした二つの身体が重なっても、





届くことはないだろうに……







ああ、わかっている。





希望と絶望と期待と諦めの境を塗り潰しただけなのだと。





浅はかな夢と幻を見ただけなのだと。







「……好き、だったから」







黒い黒い、





部屋が、あまりにも、





黒かったから……







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