COLORS



礼は、私が在籍するクラス、3年C組の担任だ。





「おはよう」





数時間前に交わしたやりとりなど、夢か幻かと言わんばかりに、

礼は、教師の姿をして教壇に立ち、

私は、制服を着て席に座っている。







その距離を、もどかしいと感じていたのは、いつの頃までだっただろう。







出席簿を開く礼の左袖から、時折、白い包帯が見える。



今朝、私が、処置したものだ。



おそらく、このクラス、いや、この学校の誰も、礼が、左袖の下に隠している傷を知らないだろう。



知っているのは、私だけだ。







その優越を感じていたのは、いつの頃までだっただろう。







朝のホームルームが終わり、礼が消えた教室は、がやがやと賑わっている。





「……良、何をどうしたら、こんな答えが出るの?」



「それがわからないから、教わってるんだろ」





隣の席では、坂下君と前原さんが、ノートを広げて言い合っている。





「だから、どうして、そんな答えになるの? 良の頭は、どうなってるの?」



「俺の頭は、すみれのことしか考えてないよ」





あの一件があった後、彼らは、特別な関係であることをカミングアウトした。



前原さんを護ると言った坂下君は、そうして、前原さんを護ろうとしているのだ。





自分のものに手を出すな、と。







そんな、彼らを、







呑気、だと思った。







羨ましい、とも思った。







そして、自身を憂う。







私を隣に置きながら、私一人の存在だけでは足らない、礼。



私一人の存在だけでは足らないとわかっているのに、隣に居座る、私。







絶えることのない、傷口。



絶やしてはやれない、傷口。







そして、自身に問う。







私は、どうすればよかったのか、と。



私は、どうしたらいいのか、と。







ねぇ、礼……







◇◆◇◆◇
< 9 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop