COLORS
5th Colors
風は、まだ、冷たい。
桜は、まだ、咲いていない。
この胸にある、花は、何の花なのだろうか……
卒業式を終え、賑わう学内を、後藤ゆりは、中庭のベンチに座り、見つめていた。
そう、この胸にある、花は、何の花なのだろうか、と、考えながら。
「すみれ」
そのうちに、いつかに聞いた声がして、
「また、君? 残念ながら、すみれ、じゃないよ。ゆり、だよ」
「ああ、ごめん、つい……」
同じく胸に花のある、坂下 良が、繰り返す。
「上野……退院したんだな」
坂下 良は、また、後藤ゆりの隣に腰をかけ、
「そうだね、卒業式に間に合って、よかったね」
目の前の中庭で、生徒に囲まれる教師、上野 礼に、視線を向ける。
「……上野の怪我、本当に、事故だったのか?」
“罰が当たったんだよ”
「すみれ……」
坂下 良の問いに答えたのは、後藤ゆりではなく、あとから現れた、前原すみれ、だった。
前原すみれの胸にも、また、花。
「事故だって言うんだから、事故だったんでしょ。それより……君たち、同じ大学には行けそう?」
「んー……良が、頑張ったら、かな」
「すみれは、もう、推薦で受かってるからな。うん、俺が、頑張ったら、だな」
「坂下君なら、大丈夫だよ、きっと」
「後藤は、どこの大学?」
「大学には行かない」
「就職か?」
「まさか」
「じゃあ……」
「白紙になっちゃったから、何もかもね」
その時、前原すみれの身体が、びくりと強張る。
「なぁ、おまえらも、先生と一緒に、写真、撮るか? 思い出の一枚」
生徒に引けを取らない勢いで、はしゃぐ、上野 礼が、近づいてくる。
上野 礼には、胸ではなく、首に、花ではなく、傷跡。
「よくもヘラヘラとそんなこと……!! 自分がしたこと、わかってんの!?」
「怖いなぁ、前原は。あれはもう、過ぎたことじゃない。そんな鬼婆みたいな顔してると、坂下に逃げられるぞ。それはそれで、おもしろいな、あははは、ははは」
「笑ってんなよ、この……」
「やめろ、すみれ!!」
坂下 良は、憤る前原すみれを宥めながら、前原すみれの手を取り、上野 礼から、そして、中庭から、離れていく。
「あのことは、忘れるって言っただろ」
「そうじゃない!!」
入り口を抜け、校舎に入ったところで、前原すみれは、堰を切ったように吐き出す。
「あの時、上野が言ってたんだよ。この香りはよく知ってる、って」
“Sweetie Sweetie Sweetie”
「あいつ……後藤さんと……」
坂下 良は、繋いだ手を、さらに、強く握る。
「俺だって、気づいてるよ。上野の怪我と、後藤の進路が白紙になったこと、それが、繋がってることくらい」
「だったら……」
「だったら、何? 俺らに、何かできることがあるのか?」
明日には、もう、ここにはいない。
だからこそ、振り返ってはいけない。
「何も……できないよ……」
卒業とは、
そういうことなのだ。
「だから、忘れよう。全て、全て。そして、これからを見ようよ。それで、いいんだ」
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