陽のあたる場所へ


沙織の動揺を感じて何かに気付いたふうないずみに、明るくそう言い放つと、沙織は電話を切り、背にしていた壁にもたれて溜め息を一つつく。


…これが現実なんだと受け止めたつもりだったが、寄り添っている恋人同士の姿として目の当たりにするのは、やはりきつい…

二人の姿が街中に消えて行っても、その時の舞子の笑い声が、沙織の耳について離れなかった。




…彼が、結婚してしまう…
…今までだって、想いが届かないのはわかっていたけど、もう、本当に手の届かない人になってしまう…


…きっとあの『契約』も、もう終わりだ…
身体だけの関係でもいいなんて、思ったことなんてない。
…でも…
全く手が届かなくなるくらいなら、それでも良かったのに…。
嘘でもいいから、彼の体温を感じていられたのに…。



…何て惨めなこと、考えてるの?そんなの、バカげてる。
沙織は、涙を掌で拭うと、そんな思いを否定して自分を嘲笑う。


見上げると紺碧の空が広がっていて、三日月に薄雲がかかっていた。
都会の空は星も見えないけれど、冷たく澄んだ空気の中に吐く息は白く、それはすぐに闇に溶けて行った。

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