陽のあたる場所へ
社長室での商談が終わり、事務所のデスクの方に戻って来た龍司が、ふと沙織に目を向ける。
「ん?どうした?その手」
「あ、これはさっきちょっとお湯がかかって…。でも、保冷剤つける為に巻いてるだけなんで、たいしたことありません」
「そうか…相変わらずドジだな」
全く…そんな言葉しか出ないなんて…。
吉沢のような思いやりはないのか…と沙織は心の中で悪態をついてみる。
ま、わかってたことだけど、でも、声をかけて来ただけマシか…と。
「ちゃんとすぐに水で冷やしたのか?」
意外な一言に沙織は、もう一度顔を上げる。
「はい、吉沢くんがそうしろって」
「そうか、ならいい」
心配して貰った記憶などまるでなかったので、ポカンとしてしまい、思わず吉沢と顔を見合わせると、彼もまた同じ表情をしていた。
いや…でも、こんなことでほだされてちゃいけない。
単なる気紛れだ。商談がうまく行って、ちょっと機嫌が良くて口が滑った…とか、多分そんなとこだ。