アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
「どうしたの? 那智。
朝から憔悴して」
給湯室で、隣の部署で同期の樋田桃子(ひだ ももこ)が言ってくる。
「いや……
どっと疲れることがあって」
そうなの? と言った桃子だったが、話はすぐに、先輩が振ったコンパの話に流れていく。
おーい。
聞いてくれよ~。
いや、聞かれてもあまり言えることもないんだが、と思っていると、部次長が給湯室にやってきた。
「和泉さん、和泉さん。
これ、千田さんとこ持ってって」
と回覧を渡される。
「えーっ」
と思わず、口から出てしまう。
「えーっじゃないでしょ。
よろしくね」
部次長は、ほい、と那智の手に回覧渡し、行ってしまった。
千田は秘書室長だ。
おそらく、秘書室に居る。
うわ~、行きたくない。
緊張するんだよな、あそこ。
それに、あの辺りウロウロしてると、まずい人に出くわしそうで、と思っていたら、案の定出くわした。
秘書室には幸い千田は居らず、女性秘書の河村妙子(たえこ)しか居なかった。
秘書の中でも、年の近い妙子は比較的話しやすい人だった。
が……。
何故、貴方が居るんですか、と那智は遥人を見た。