アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
 今、専務がこのドアを開けても、ああ、カピバラが湯に打たれてる……、くらいにしか思わないんだろうな。

 年頃の娘としては、かなり問題がある気がしてきた。

 ふと、
『今日も帰らなかったのか』
という遥人の言葉が頭をよぎる。

 頭からお湯を浴びながら、那智は、今、此処には居ない遥人に向かい、呟いた。

「帰れなかったんですよ」

 おのれの手を見る。

「……帰れるわけないじゃないですか」

 その手には、誰かが握り締めたような深い爪痕がついていた。




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