アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜



 今日は遥人は仕事が遅くなるようだった。

 鍵を開けて入っていていいと言われたのだが、人の家に勝手に入るのもな、と思い、例のドーナツ屋で待つ、と連絡した。

 でも、こんなところで会っていたら、いい加減、誰かに見つかりそうな気もするんだけど、と思いながら、那智は外を眺めていた。

 すると、案の定、見知った顔が窓ガラスを叩いてくる。

 げ、と思った。

 同期の坂上亮太(りょうた)だ。

 学生時代は、テニスで結構有名だったらしいが。

「もうやり切った」
と言って、すっぱりやめてしまったようだった。

 だが、今でも如何にも鍛えている風だ。

 ぱっと見、爽やかだが、そんなに爽やかでもないところも、こちらのイメージ通り。

 中に入ってきた亮太は、
「那智、なにしてるんだ?」
と訊いてくる。

「ゆ、夕食?」
と言いながら、自分で手許を見下ろした。

 夕食は不自然だったか、と思う。

 ドーナツとアイスティーくらいしか口にしていない。

 だが、この時間に、お茶だけしてるなんて、如何にも待ち合わせ風だしな、と思ったのだ。
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