イブにあいましょう
事情はどうであれ、エコノミーからファーストクラスに格上げされた私は、念のためということで、車椅子に乗せられて、最優先扱いで入国ゲートに出る事ができた。

迎えに来てくれていたアシスタントの矢野君は、私が一番乗りということよりも、車椅子に乗ってゲートから出てきたことにビックリしながら、すぐ私の方へ駆け寄ってきてくれた。

「りさ子さん!?どうしたんですか!」
「あぁ、ちょっとね。熱出ちゃって。もう大丈夫です。ありがとうございました」

私は、車椅子から立ち上がると、車椅子を押してくれた空港のスタッフにお礼を言って頭を下げた。

「普通に歩けるんだけど、一応規則ですからって言われて・・・」
「そっか。良かった。明日、仕事いけますか?」
「あったりまえよ!今晩で平熱に戻すから!」

私は、矢野君にそう言いながら、辺りをキョロキョロ見渡した。
けれど・・・紀章さん、いない。

「・・・りさ子さん?聞いてますかー。いつまでもここに突っ立ってないで行きましょうって俺、言ったんですけどー」
「あっそうだね・・・行こう」

せめて、一言だけでもお礼を言いたかったのに。
8年ぶりに再会した奇跡のパワーは、もう効力を失ってしまったの?

私は名残惜しく何度も振り返りながら、空港を後にした。

< 12 / 60 >

この作品をシェア

pagetop