イブにあいましょう
・・・クスクス笑う声も含めて、紀章さんの声に間違いない。

私はシートに「寝た」まま、思いきって右側を向くと、そこには彼が・・・紀章さんがいた。
その途端、彼は右手を私の額にそっと当てた。
私は、その仕草に驚く暇もなく、抗う気もないうちに、彼の右手はすぐに額から退けられた。

「熱は下がったな。右手出して」と紀章さんに言われた私は、言われるままに、毛布から右手を出した。
彼は、私の右手首にそっと指を添えて、脈を測り始めた。

ゴツゴツした武骨な手首に巻かれた腕時計を、紀章さんはじっと見ている。

・・・8年経ってもこの人は変わってない。
ううん、髪に白髪が見え隠れしているところや、目尻にしわがあるのを発見できたところに、8年という時の経過を感じる。
それでも、少々面長で、鼻筋の通った雅な顔立ちは相変わらず。
・・・そして、「どこもかしこもカッコいいな」と思ってしまう私の気持ちも・・・相変わらず褪せてないことに気がついて、ちょっとビックリしてしまった。
< 4 / 60 >

この作品をシェア

pagetop