御曹司と愛され蜜月ライフ
私の住む部屋の横──203号室のドアの前に、格好からして引っ越し業者と思われる人と、私服姿の見知らぬ男性が立っていた。

何やら話し込んでいるふたりを見て、私はひそかに嘆息する。


……やっぱり、誰か引っ越して来たんだ。

しかも、私の隣りですか~。203号室は1年以上空き室だったから、気が楽だったのにな。

ま、仕方ない。人が住むためのアパートなんだもん、いずれこんな日が来るとは思ってたさ。


人知れず降下するテンションとはウラハラに、錆び付いた鉄製の階段をゆっくりのぼっていく。足を踏み出すたびにカン、カンと甲高い音をたてるこの階段は、その古さゆえにいつか底が抜けてしまうんじゃないかと実は通るたびにびくびくしている。

私が2階に近づくのと比例し、話し声がだんだん大きくなって来た。そこで私ははたと、今の自分の格好を顧みる。


着古して襟のあたりがゆるゆるになったロンTに、セールでまとめ買いしたダサいけど履き心地のいいジャージ。足元は裸足にクロックス。

顔は眉毛しか描いてないし。いつもの黒縁メガネを装着して、髪の毛はアレンジというよりただ単にジャマでざっくりひとつに括っただけ。


……避けようもなく、この格好でお隣りさんと初対面しちゃうわけですけど。

さすがに、1番最初がコレって微妙だよなあ……いやまあ、通勤用の作ってる自分の後にコレ見られた方が、落差あって気まずいか。そんなら、こっちから見られた方がまだマシ?

うーん、あまり生活サイクル合わない人だといいな。朝のゴミ出しのときとか、アパートの人と会っちゃうとなんとなく微妙な気分になるし。まあこれ、単に私が人見知りなだけかもしんないけど。
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