御曹司と愛され蜜月ライフ
そんなことを考えているうち、階段をのぼりきった右足が2階の通路にかかる。

……とりあえずそろそろ本気で腕が痛いから、ひとことだけ挨拶してさっさと自分の部屋に入ってしまおう。うん、それがいい。


心の中で決意して、スタスタと足早に自室を目指す。

新しい入居者と思われる人は、まだ業者さんと話し込んでいるようだった。なるべく顔を向けないようにしつつも、通路が狭いうえこちらから近付いているわけなので、否応なしにその姿が視界に映り込む。

男性はこちらを向いて立っているはずなんだけど、いかんせん手前にいる業者さんのガタイがいいので今の角度だと顔はよく見えない。

それでも近付くにつれ、だんだんと明らかになるその姿。引っ越し業者さんには及ばずともすらっと背が高く、白いインナーに黒いカーディガン姿。デニムに包まれた足はまるでモデルみたいに長い。

ワックスでセットされた黒髪は清潔感があってさわやか。そして、……おっと、なかなかのイケメンじゃない?

男性の見た目の良さに気付いて、さっきまでよりもついあからさまに視線を向けてしまう。


たぶんまだ若い。私と同じくらいか、せいぜい二十代後半ってとこだろう。

シャープな顎のラインと眼力の強い切れ長の瞳が印象的で、その攻撃的な目元の雰囲気を左目下に並んだ愛嬌のあるふたつのほくろがやわらげ──……。



「(……ん?)」



そこで、何かが頭の片隅に引っかかる。

私……つい最近にも、どこかで同じようなことを思ったような……?
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