御曹司と愛され蜜月ライフ
私の『最後』というセリフを聞いたとき、課長の瞳が一瞬だけ揺らいだように見えた、けど。

そんなの気のせいだったと思うような様子で、課長はまた料理に視線を落とす。



「いいのか? こんなにたくさん」

「いいんですいいんです。あの、今回は紙のお皿を使ってるので、食べ終わったらそのまま捨てちゃってください。あ、おぼんは、私の部屋のドアの横にでも置いといてもらえれば大丈夫です」



あまり時間をかけないよう、早口で話す。

そこで課長が、私でも気付く程度に小さく眉を寄せた。



「上がって行かないのか?」



は、と詰めた息を、飲み込む。

……またこの人は、さらっとこういうことを言う。

私だから、勘違いしなくて済んでるけど……他の女性相手にもそんな思わせぶりなことばっかり言ってたら、いつか面倒なことに巻き込まれちゃうんじゃない?

もしかして今後、会社の受付にまで押しかけちゃう女性とかいたりして。ああそれ、すごく面倒くさそうだなぁ。


──……うん、そう。私は、勘違いなんてしないんだから。

私と近衛課長じゃ、まったくつり合わないって。……ちゃんと、わかってるんだから。



「……いえ、もう戻ります。課長、明日の準備いろいろあるでしょう? 邪魔しちゃ悪いですし」

「邪魔じゃない」



すぐに否定してくれる彼に、私は泣きそうになる。

でも、今はそのやさしさが残酷だ。ぐっと目元に力を入れて、なんとか堪えた。
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