御曹司と愛され蜜月ライフ
明日、会わなかったら……ここで顔を合わせるのは、もう最後かもしれない。
私は精いっぱい、笑ってみせる。
「ありがとうございます。でも、今日は失礼しますね」
ぺこりと頭を下げ、それからまた、まっすぐに課長の顔を見上げた。
「短い間でしたが、隣人としてお世話になりました。今後はまた会社の方で、よろしくお願いしますね」
言いながら、薄っぺらい挨拶だなぁと思う。
だってきっと、もう、近衛課長とはほとんど話す機会がなくなるのだ。同じアパートの隣人同士になるまでが、そうだったように。
それを自分でもわかっていながら、そんな社交辞令を並べて別れる。なんて、薄っぺらい関係だったんだろう。
課長は、そんな私をじっと見据えて。
それから小さく、うなずいた。
「……ああ、そうだな。こちらこそ、世話になった。最後の晩餐、ありがたくいただくよ」
最後の最後でイタズラっぽくそんなことを言うから、ふっと頬が緩んだ。
それじゃあ、と、私は彼に背を向ける。
背を向けて、そして──課長が私を見つめたままでいることに気付いたから、すぐに自分の部屋のドアを開けて中に入った。
……うん、いい。これで、いいんだ。
自分に言い聞かせるように、胸の中で繰り返す。けれども課長の顔が見えなくなって気が緩んだのか、吐き出す息が震えた。
ひやりと冷たい鉄製の鍵を回す。それとは対照的に熱いしずくが頬をつたい落ちて、コンクリートの玄関にシミを作った。
私は精いっぱい、笑ってみせる。
「ありがとうございます。でも、今日は失礼しますね」
ぺこりと頭を下げ、それからまた、まっすぐに課長の顔を見上げた。
「短い間でしたが、隣人としてお世話になりました。今後はまた会社の方で、よろしくお願いしますね」
言いながら、薄っぺらい挨拶だなぁと思う。
だってきっと、もう、近衛課長とはほとんど話す機会がなくなるのだ。同じアパートの隣人同士になるまでが、そうだったように。
それを自分でもわかっていながら、そんな社交辞令を並べて別れる。なんて、薄っぺらい関係だったんだろう。
課長は、そんな私をじっと見据えて。
それから小さく、うなずいた。
「……ああ、そうだな。こちらこそ、世話になった。最後の晩餐、ありがたくいただくよ」
最後の最後でイタズラっぽくそんなことを言うから、ふっと頬が緩んだ。
それじゃあ、と、私は彼に背を向ける。
背を向けて、そして──課長が私を見つめたままでいることに気付いたから、すぐに自分の部屋のドアを開けて中に入った。
……うん、いい。これで、いいんだ。
自分に言い聞かせるように、胸の中で繰り返す。けれども課長の顔が見えなくなって気が緩んだのか、吐き出す息が震えた。
ひやりと冷たい鉄製の鍵を回す。それとは対照的に熱いしずくが頬をつたい落ちて、コンクリートの玄関にシミを作った。