御曹司と愛され蜜月ライフ

とりあえずあれ以上の怖いシーンを回避することに成功した私は、ぺたりと床に座り込んで深くため息を吐いた。

壁にかけた時計を見ると、もうすぐ日付も変わろうという時間。……電気どころかテレビもつけっぱなしで寝ちゃって、観ていたはずのドラマからいつの間にかホラー映画に変わっていたらしい。なんという罠。

たとえそれが作り物だとわかっていても、ホラー映画やらお化け屋敷というのは私が一番苦手としているものだ。怖いもの見たさという感情すらない。怖いから見ない。絶対見ない！


さっきテレビに映ってた某有名ホラー系邦画は、私が大学生の頃一度だけサークル仲間に無理やり見せられたことがあった。

そのときも、怖すぎてガタガタ震えたけど。それでもあのときは外が明るい真っ昼間だったうえ、他に人が何人もいた。

しかもその日は、そのまま誰かの家に泊まりだったし。だから、たまに思い出すことはあってもなんとか今日までやって来れてたのに……！


今の私はひとり暮らし。サークル仲間どころか家族もいない。

こんな真夜中に、ひとりきり。ひとりきりのまま、この部屋で眠らなければいけない。



「ッ、」



そのとき室内に、ピンポーンという間延びした音が響き渡った。

何の音かはわかってる。この古いアパート備え付けの、これまた古いドアチャイムだ。

……で、なんでこんな時間に、ウチのドアチャイムが？


動けずにいる私の耳に、二回目のチャイムの音がハッキリと届く。

それでも息を押し殺しながら固まっていたら、今度は直接ドアを叩く音がしてビクッと肩がはねた。



「ひぃ……っ」



小さな情けない悲鳴をあげ、もはや半泣きで玄関へ目を向ける。

なに、なんなの、一体なにが来てんの！！？

心臓は口から飛び出るんじゃないかってくらい早鐘を打っているし、身体中がガタガタと震えていた。

やばい、死ぬ。このままじゃ死ぬ。死因・恐怖死とかあんの？　ていうかそんなよくわかんない感じで私27年の生涯を終えちゃうの？？　まだ見終わってないドラマもマンガもあるのに！