御曹司と愛され蜜月ライフ
ドンドンドン!と三度音をたてたドアが一旦静かになって、再び鳴り出した。

ああこれもうだめだ死ぬ、と完全に思考を放棄しようとしたところで、聞き覚えのある声が耳に届く。



「卯月? おいっ、開けろ、卯月!!」



……この声、課長……?

私の名前を呼ぶその声に一瞬気が逸れそうになったけれど、いやいやと思い直す。

まさか、こんな時間に近衛課長が来るはずない。たぶん今のはあれだ、近衛課長に成りすました別のモノだ!! なにそれ怖い!!!



「くそ……っおい卯月今すぐ開けないとこのボロいドアぶち壊して」

「うわああちょっと待ってください開けます今開けますからぁっ!」



ドアをぶち壊すとの暴言を聞いて反射的に返事をしてしまった。即座に立ち上がった私は玄関へと駆け寄り、急いでドアチェーンを外して鍵を開ける。

とたん、外側から勢いよく開かれたドアにつんのめりそうになりながらもなんとか堪え、そのまま顔を上げる、と。



「か、課長……?」

「………」



そこには、なんだかものすごくあせったような困ったような顔をした近衛課長がいて。

あっけに取られる私の肩を、がしりとその両手が掴む。



「卯月、どうした?!!」

「へっ?! なっ、えっ、何がですか?!」



むしろそっちがどうしたと訊きたいくらいの勢いで凄まれ、思わず肩をすくめる。

だけど、私が引いた分課長が近付いて来る。普通の上司と部下ではありえない近さで、課長が私を見下ろした。
< 121 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop