御曹司と愛され蜜月ライフ
「さっき、悲鳴をあげただろ! 何かあったのか?!」

「ひ、悲鳴……?」



混乱の極みにいながらも、自分の記憶を呼び起こしてみる。

あまり時間をかけずすぐに思いついた。『さっき』、『悲鳴』といえば……。



「あ、あのそれは、ホラー映画が……」

「は?」



課長が思いっきり眉根を寄せる。とたんに申し訳ない気持ちになった私は、視線を泳がせつつ続きをぼそぼそ口にした。



「えっと、さっきまで私、テレビつけっぱなしで寝ちゃってて……で、起きたらテレビの画面にいきなりホラー映画が映ってたから、び、びっくり、しちゃいました……」



言い終えて、ちらりと課長の顔を確認してみる。

さっきまでちょっとこわいくらい険しい表情をしていた課長が、今やものすごくつまらないお笑い芸人を見てしまったかのような呆れ顔をしていた。

その表情のまま、はーっと深くため息を吐く。



「なんだそれは……まったくおもしろくないぞ……」

「う、嘘とかネタじゃないですよ?! あの私、こう見えてほんとホラーとか苦手で……!」



必死で言い訳する私を見下ろして、言葉の代わりにもう一度盛大に嘆息する課長。

あー、やっぱこれ完全に呆れられてる。ですよねー、こんな夜中にいい歳してホラー映画で悲鳴あげるとか、何やってんだって感じですよね……。

あまりの情けなさにそれ以上言葉も出ない。思わずうつむいた私の頭に、ふわりと何かが乗った。

弾かれたように顔を上げれば、そこには先ほどの呆れ顔より、もっとやさしい表情をした近衛課長がいて。



「いや、すまない。卯月に何かあったわけじゃないならよかった」

「……ッ、」



私の頭に乗せられていたのは、課長の大きな手のひらだった。

ぽん、ぽんとゆっくりはずむ手の感触が、緊張していた私の心を溶かしていく。

前と、一緒だ。最低男にホテルに連れて行かれそうになっていたところを、助けてもらったあのとき。

課長の手のぬくもりは大きな安心感と、それと同じくらいのときめきを与えてくれる。
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