御曹司と愛され蜜月ライフ
……ずるいよなぁ。こんなふうに、ドキドキさせてくれちゃってさ。

恋人でも何でもない私に対しても、こうやってやさしくしてくれるんだから……ほんと、参っちゃう。



「あ、あの課長すみません、もう大丈夫です……」



なんとか声をしぼり出し、ちょっとだけ身を引く。

気付いた課長が手を止め、目をまたたかせた。



「そうか?」

「はい……あの、こんな時間にお騒がせしてすみませんでした」



そこで一度言葉を切り、少し迷ってから、逃げずに課長の顔を見上げる。

恥ずかしいけれど、きちんと目を合わせたままでまた口を開いた。



「えっと……来てくださって、うれしかったです。ありがとう、ございます」



頬が熱い。しどろもどろにお礼を言う今の私の顔は、たぶん真っ赤だ。

一瞬驚いたような表情をした課長が、すぐにその口元を緩める。



「ああ……いや、こっちこそ勘違いで押しかけて悪かったな。いつだったか俺が電子レンジでたまごを爆発させて、卯月が血相変えて突撃して来たことを思い出した」

「う……そ、それは、今となっては恥ずかしい思い出なんですよ……」

「ははっ」



私が拗ねたようにまた目を泳がせると、声に出して課長が笑った。

無邪気な笑顔に胸がときめく。さっきまでよりずっと、体温が上がった気がする。



「それじゃあ、戸締まりはちゃんとしろよ。おやすみ」



そう言って背を向けかけた課長に手を伸ばしてしまったのは、たぶん無意識だった。

パジャマ代わりらしいカジュアルなロンTの裾をしっかり掴んで引き止めた私を、不意をつかれた表情の彼が見下ろす。

そんな課長にハッとし、私はあわててその手を離した。
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