御曹司と愛され蜜月ライフ
「あ……す、すみません、つい! ってあー、えっとあの、そうじゃなくてなんていうか……っ」



私自身自分の行動が信じられなくて、半ばパニックになりながらなんとか弁解しようとする。

でも、うまい言い訳が思いつかない。ほとんど半泣きでうろたえる挙動不審な私を見つめ、しばらく黙っていた課長がついに口を開いた。



「怖いのか? 卯月」

「え、」

「さっき見たホラー映画を思い出して、まだ怖いっていうなら……眠くなるまで、話し相手くらいにはなってやれるぞ」



つい、ぽかんとまぬけな顔をしてしまっていたと思う。

それでもそんな私を見下ろす課長の表情は、いたって真剣で。


たぶん数秒にも満たないその間、いろんなことが頭をよぎった。

少しでも関わりを減らすため、せっかく差し入れの晩ごはんは紙皿を使って食器のやり取りをしなくて済むようにしたのに、とか。

これ以上課長のやさしさに甘えたら、この人への恋心をますます捨てにくくなっちゃうんじゃないか、とか。

そもそも明日課長は引っ越しがあるのに、私の情けない事情に付き合わせてしまうのは申し訳ない、とか。

そうやって、いくつもの問題を頭の中に並べながら。だけど邪な私の本心は、どうしても、目の前のやさしい人を拒絶しきれなかった。



「あの、ご、ご迷惑じゃなければ……おねがい、します……」



もじもじと身体の前で指を絡めながら、つぶやく。

小さな声だったけれどそれでも課長にはちゃんと聞こえたらしく、笑みを浮かべてうなずいてくれた。
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