御曹司と愛され蜜月ライフ
考えれば考えるほど、だらだらと冷や汗が流れてくる。

……えーと、落ち着け。私は今、100%オフの干物女バージョンだ。我ながらオン時とのギャップは強烈だと自負しているし、さっきの接触だけで課長が私を“コノエ化成の卯月 撫子”だと気付いてる可能性は低い。ていうか受付嬢してるとはいえ私の顔と名前を認識してるかも微妙?だよね?

とはいえ、この状況はマズい。私の干物っぷりは特別秘密にしときたいわけじゃないけど、隣りに会社の人が住むとなると話は別だ。気になって今まで通り自由にできたもんじゃない。

今後近衛課長に、隣人の私がコノエ化成の社員だと知られなければまだいい。でもさっき、不自然に反応しちゃったし。つーか隣りに住んでるんだからこの先どの場面で気付かれるかわかんないし!



「はああ~~」



深いため息。今さらながら両手にかかる重みを思い出して、ようやく上がりかまちに荷物を置いた。

のろのろとクロックスを脱ぎ、再び重たい荷物を持ってワンルームの部屋の中を進む。


……どうしよう。これはいっそ、私の方が引っ越すべき?

たしか、大家さんには退去する1ヵ月前に伝えとくと余計な家賃払わなくていいんだっけ。

いやでも、私ここ気に入ってるんだってば。ていうか後から来たのは向こうなのになんで私が出て行かなきゃなんないの……! まあ私が勝手に気まずいからなんだけど!!


ぐるぐると思考をめぐらせながらも、スーパーで買った食材たちを冷蔵庫にしまっていく。

ぬるくなりかけたビールに手をかけたとき、私の心は決まった。
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