御曹司と愛され蜜月ライフ
寝ぼけた脳内でセルフツッコミをしつつ、一度ドアノブを回してちゃんと施錠されているか確認。

そうしてパンプスに包まれた足を踏み出した私は。



「(……ん?)」



次の瞬間『ガチャリ』と耳に届いた音に、何の疑問も持たず顔を向けてしまった。



「──ッ、」



音の発生源は203号室。つまりは、避けるべき近衛課長がいるはずの部屋で。

開いたドアの向こう側にネイビーブルーのスーツを認識したと同時、右手首を掴まれて勢いよく引き寄せられた。


乱暴な音をたてて背後でドアが閉まる。私の背中は、ぴったりとその無機質な板に密着していた。

薄暗い室内、呆然とする私の目の前には……いつも会社で遠目に見ていた雲の上の存在、近衛課長の姿。



「……ずいぶん、お早い出勤じゃないか」



ひやりと冷たい声に背筋が凍る。突然のことに何がなんだかわかっていなかった私は、そこでようやく自分の置かれている状況を理解した。


203号室の前を通過しようとした瞬間、いきなり開かれたドアの中に引きずり込まれて。

ドアの内側と自分との間に私を囲うようにしながら、近衛課長が目と鼻の先に立っている。

逃げ道をふさぐためか、私の顔の両側には彼の腕。無駄に距離が近いとは思うのだけど、驚きのあまりその至近距離を意識する余裕もない。


……えーと。

なにゆえ私は、こんなことになっているのでしょう。
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