御曹司と愛され蜜月ライフ
課長は私の視線を受けても、きょとんとした表情で小さく首をかしげるだけ。



「……課長は、ゆで卵でも作ろうとしたんですか?」

「違う。最初は目玉焼きを作ろうと思ったんだ」



ほー、目玉焼き。……殻から出してもなかったみたいですけど。



「だけどいざ作ろうとしてみたら、自分がたまごを割ったこともないって気付いてな。だからとりあえず、そのまま加熱してみようと思って」

「……電子レンジで?」

「電子レンジで」



くらくらする。今どきこんな人いるのか。

ひたいに片手をあて、今日何度目かのため息。まさか自分の会社の御曹司が、こんなにも料理センスのない人だったとは。

私が心の底から呆れていることを感じとったのか、課長がさっきまでよりちょっとだけ気まずそう。……不覚にも、その表情がちょっぴりかわいいとか思ってしまった。


ああもう、仕方ないなあ。

私は心を決めて、彼に顔を向けた。



「近衛課長、目玉焼き作ろうとしたってことは、朝ごはんはまだですか?」

「……そうだが」



しゅんとしてるウチの会社の御曹司。いつものキリッとした様子とギャップがあって、やっぱりちょっとかわいい。

これも、ある意味母性本能?

あんなに、関わるの嫌がってたのに……なんとかしてあげたいって、思ってしまった。


ふと見ると、調理台の上には置きっぱなしのたまご10個入りパックがある。……こういうとこから、家事慣れしてないのわかるなあ。

そこからひとつを取り出し、彼を振り返った。



「課長。たまご、ひとついただきます」

「ん? ああ、構わないが」

「ありがとうございます。……それから、少しだけ待っててください。あ、電子レンジの中、片付けておいてくださいよ?」



未だひどい惨状のレンジをぴしっと指して念を押してから、方向転換し玄関を目指す。

背を向ける直前に見えた近衛課長の表情は、わけがわからないといった様子でぽかんとしていた。いつも冷静な人なんだと思ってたけど、意外と表情があるのが可笑しくてついふふっと笑みがこみ上げる。

そうして隣室を出た私は自分の住み慣れた部屋へと戻り、コンロを前にして腕まくりをした。
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