御曹司と愛され蜜月ライフ
「えっと……もしよかったら、どうぞ……?」



最後はなぜか疑問形になってしまった。だって勢いでこんなものを持って来てしまったけど、もしかしたら迷惑だったかもって今さらながら気付いたから。

近衛課長は固まっている。そして私の“ここから逃げ出したい度”がマックスになる直前、急に立ち上がった。



「ッ、……課長……?」

「箸を、取ってくる」



ぽつりと課長がつぶやく。その言葉に、心底ほっとしたなんて口が裂けても言えない。

いただきます、ときちんと手を合わせて。彼が目玉焼きに箸を入れて口に運ぶまでの様子を、隣りに座り込みながらじっと見ていた。



「……そんなに見られてると、食べにくいな」



咀嚼の合間に視線を寄越して、課長が小さく言った。

ハッとした私は、あわてて顔を背ける。



「あ、すみません、つい」

「いや、いい。……おいしいよ、目玉焼き。黄身もこのくらいが丁度いい」



その言葉が笑い混じりだということに気付いたから、また急いで視線を戻した。

予想通り、口元に笑みを浮かべた課長がこちらを見つめていて。



「──ッ、」



急激に頬が熱くなる。私は思わず目を泳がせた。



「っふ、フライパンで、焼いただけですが……」

「それでも俺にはできなかったがな。こっちのおかずも遠慮なくいただく」

「あ、はい。どうぞ」



課長はその後、肉じゃがもお浸しもお味噌汁も、全部「おいしい」と言って食べてくれた。

まさかの事態だったけど、自分が作った料理で誰かによろこんでもらえるとうれしい。綺麗に平らげられたお皿を見て、つい頬が緩む。
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