御曹司と愛され蜜月ライフ
その光景を想像すると、なんだか微笑ましい。

そういえば私を家に招き入れるとき、課長は『助けてくれないか』って言ってた。あれって、ぐちゃぐちゃになってる電子レンジをどうしていいのかわかんなかったのか。

なのに掃除は任せきりにして、かわいそうなことしちゃったかな。



「……なるほど」



そんなことを考えていたら。



「それでよく、ひとり暮らししようと思いましたね?」



彼に向ける私の声は自然と、笑い混じりのものになってしまう。

課長自身も、こちらの反応の理由はなんとなくわかっているらしい。その整った顔がますます苦いものになる。



「……仕方なかったんだ。実家を出ようと決めたのは急なことで……自分の生活能力を顧みる暇もなかった」

「え。もしかして、ひとり暮らし自体初めてなんですか?」

「ああ、この歳になって恥ずかしいことにな。おかげで勝手がわからん」



つぶやいて、課長がため息を吐く。

それにまた、私は小さく笑ってしまった。


完全無欠かと思われた御曹司の弱点が、まさかの家事全般とは。意外と残念なところがあって、ちょっとだけ近衛課長が身近な存在に感じた。

……まあ、だからどうってこともないんだけど、さ。


オフモードのせいか、自分が作った料理を褒めてもらえたからか、はたまた上司の予想外な欠点を見つけてしまったからか。

このときの私は、なんだか気が緩んでしまっていて。

きっと、だから自然と、何でもないような調子で“その質問”をしてしまったのだ。
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