御曹司と愛され蜜月ライフ
でも、そのお見合いと引っ越しに、何の関係が?


課長がごしごしと目元をこすった。あの、ふたつのほくろのあたりだ。

やっぱり、その顔は不機嫌そう。



「俺は見合いを断固拒否したが、親父も譲らなかった。そこで、」

「……そこで?」



近衛課長、よっぽどイラついているのか呼び方が『社長』から『親父』になってる。

続きを促すと、ため息とともに課長は答えた。



「強硬手段だ。とりあえず親父と顔を合わせる機会が減るように、家から逃げて来た」

「えぇえ……」



なるほど、だから『会社の人間には話さないように』だったのか。

にしても、お見合いが嫌でとった行動が家出……まるでマンガのヒロインみたいですね近衛課長……。



「いや、でも課長。引っ越すにしてもどうしてこの安アパートに? 課長ならもっとこう、高級タワーマンションとか住めたでしょう」

「俺だって会社から給料をもらってる身だ。親父の一存で俺への給料が止められる可能性もあるし、いつまで続くかわからないひとり暮らしで無駄に金を遣うのもこわいだろ」

「……意外と倹約家なんですね……」

「あ? 普通だろ、普通」



近衛課長が思いのほか庶民派なのはともかく。

彼がこのハイツ・オペラへとやって来た経緯を聞き、ふうとひとつ息がもれた。


政略結婚のお見合いが嫌で、実家を飛び出して。

この先のことを考えてお金を節約するため、家賃の安いこの古いアパートに引っ越して来た。

なんか……住む世界が違う人間かと思いきや、結構考え方は庶民的で。

知れば知るほど、近衛課長はいろんな顔を持ってる。こんな人、はじめてだ。
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