御曹司と愛され蜜月ライフ
「まあ、まさかせっかく引っ越した先で会社の人間に会うとは思わなかったがな。さすがにあせった」



あせってたのか、アレ。

彼が引っ越して来た翌朝、いきなり部屋に引きずり込まれたことを思い出す。

……そうだ。あのとき課長は、理由も言わずに口止めして来たのに。

どうして急に今、話してくれる気になったんだろう。



「あの、課長。……いいんですか? 私に、そんな話して」



私と彼は、会社で顔を合わせたときに軽く挨拶をする程度の間柄だったはず。

なのにどうして、自分の秘密を教えてくれたの?


秘密の内容より、彼が話してくれたという事実に困惑してしまう。

課長はそんな私をじっと見て、それからふと視線を落とした。



「きみは、こちらが最初に突き放したにも関わらず──隣人である俺の心配をして、わざわざ部屋にまで様子を見に来てくれた。それに、こんなにおいしい朝食を提供してくれた」



彼が見つめる先には、綺麗に中身が平らげられたお皿や茶碗がある。

そうして顔を上げた課長は、私にまた笑みを見せた。



「……信用できる人間だと判断するには、充分じゃないか?」

「──、」



一瞬、言葉を失ってしまった。

だって、私があわててここに駆けつけたのは、結果的にはただの勘違いだったわけで。

差し出したごはんだって、別にたいしたものを作っていたわけでもなくて。

なのにこのひとは、こんなにやさしい眼差しを向けてくれる。

私を、信じてくれる。

ひとに信用してもらえるのって──……それを、言葉にしてもらえるって。こんなに、うれしいことだったんだ。
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