御曹司と愛され蜜月ライフ
私が家に帰ったらまずすること。手洗いうがい、それから部屋の換気。

10月ともなれば帰宅後の室内がまるでサウナなんてことはもうないけれど、若干年季の入った私のお城は湿気がこもりやすいのがたまにキズだ。


通路に面していない方の窓を開けながら、オン仕様でおだんごにまとめていた髪を一度ほどく。

ネットのまとめサイトを駆使して日々コーディネートをひねり出している清楚系通勤服から、着古したよれよれのロンTと楽チンステテコに衣装チェンジ。さっきほどいた胸の長さまである髪を、今度はシュシュで適当にひとつにまとめた。

化粧を落としてさっぱりした後はコンタクトも外し、地味な黒縁メガネをかけて前髪をクリップで留める。

そうして華麗にオフモードへとシフトした私は、冷蔵庫からキンキンに冷えた缶ビールを取り出した。

どうせ誰かが見てるわけでもないんだしと、行儀悪くもその場に立ったままプルタブを開けて中身をあおる。



「ぶは~~生き返るわあ~~」



色気ゼロのひとりごとをもらしながら、開け放した窓の枠に寄りかかる。

決して眺めがいいとはいえない高さから見渡す景色は、最初に見たときから変わらない。会社の最寄り駅まで電車1本のこの街は都会でもなくド田舎すぎず、日用品の買い出しに困らない程度の利便性もあってなかなか気に入っている。

私が住むここは良く言えばレトロ、ぶっちゃければ若干古臭い外観の木造二階建てアパート、その名もハイツ・オペラ。

名前こそ小洒落ているけれど、ワンルームの室内は中途半端なリフォームで床はフローリングなのに収納は押入れという、ちょっぴりちくはぐなところもあったり。

それでも角部屋にあたるこの205号室は中部屋に比べれば多少広いらしく、今は隣りが空き室で騒音なんかのトラブルもないし。

転職と同時に住み始めたから、もう2年の付き合い。私はこの部屋で、自由なシングルライフを思いっきり満喫している。
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