御曹司と愛され蜜月ライフ
「卯月は何か、欲しいものでもあるのか?」

「え?」



一瞬、頭の中で会話が繋がらなくて混乱した。

……ああ、お給料の話からのその質問ね。やっぱりマイペースだなこのひと……。



「んー、いえ、特にコレっていうものはないんですけど……まあ、週末買い物行こうかなーとは思ってます」

「ふーん」



ゴクゴクと喉仏を上下させて課長はお茶を飲んでいる。食べ方は綺麗だけど、近衛課長はすごく早食いだ。カレーももう半分なくなってる。

ちゃんとよく噛んでんのかなあと考えつつお皿から課長の顔に視線を移した私は、思いがけなく目が合ったことに驚いてびくっと肩を揺らした。

え。なにその、やけにまっすぐな視線。

たじろぐ私の心境なんておかまいなしの彼が、目を逸らさないままくちびるを動かす。



「俺も行く。買い物」

「へっ、……あ、……へー……?」

「……意味わかってないだろ。一緒に行くぞ、買い物」

「はい??!」



つい大きな声が出てしまった。一緒、って、私と近衛課長がってこと??!

いやいやいや、どうしてそんなことに……!!?


動揺する私をよそに、当の本人は涼しい顔で残りのカレーを口に運んでいる。



「車は出してやる。付き合え」

「や……え、はあ、え?」

「課長である俺の誘いは不服か? 総務の平社員、卯月 撫子」



ずるい。せこい。そんなふうに会社の上下関係をチラつかせられたら、とてもじゃないけど断れない。

グラスをぎゅっと両手で握りしめ、引きつった笑みを浮かべた。



「……よろこんでお伴させていただきます、近衛 律課長」

「よし。日曜日の11時に出発するからな。遅れるなよ」

「はい……」



ますます遠のく、私の平凡で退屈な日々。

それもこれも全部、このマイペース御曹司のせいだ……!
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